古来、重要な食料として、日本人の食に大きな影響を与えてきた「鮭」。
本州では、今や鮭が遡上する川はほとんどなくなり、その捕獲や利用の文化は風前の灯火ですが、新潟県村上市では、古くからの伝統を守る取り組みが続けられています。
今回は、村上市の「鮭」についてです。
海と夕日を望む温泉へ

夏の海で夕日を眺めたい・・・ 合わせて温泉にも入りたい・・・。
そんな漠然とした想いを描いて記憶をたどっていたところ、思い浮かんだのが新潟県の「村上」でした。
日本海を望む海岸に温泉旅館が並ぶ村上市の「瀬波温泉」は、広い砂浜から見る夕日が美しく、海水浴も温泉も一緒に楽しめて夏にぴったりというイメージです。
そして村上市は、「鮭」の産地としても有名な歴史ある街です。
鮭にまつわる歴史を訪ねつつ、夕日を眺めながら温泉に浸かる・・・・。
夏休みシーズンの初めに、そんな旅に出かけてみました。
鮭の街 村上

新潟県の北部、下越地方の中心都市である「村上市」は、旅の途中で何回か通ったことがあり、街中の商店の軒先に吊るされた「鮭の干物」が印象に残っていて、鮭の街であることは知っていました。
しかし、それ以上の予備知識がほとんどない中で訪れたのですが、街を巡る中で、新たな発見や驚きがたくさんありました。
縄文時代の遺跡からも骨が発掘されるくらい、日本人は古くから「鮭」を食べてきました。
海へ漁に出なくても、産卵のために川を遡上して来たところを捕まえられる鮭は、捕獲しやすく、狩猟採集をしていた大昔から重要な食料でした。
そして江戸時代の村上藩では、鮭を重要な産業として保護・育成に努め、藩財政の柱のひとつとしてきた歴史がありました。
しかし、近年の河川開発に伴い、サケが遡上する川は激減してしまい、こうした歴史や文化も過去のものになりつつあります。
そんな中、鮭に関わる文化を受け継ごうと、村上市では様々な取り組みが行われています。
イヨボヤ会館

とりあえず歴史や文化を展示している「博物館」的な施設を訪ねてみようと思い調べてみると、聞き慣れない名前の施設が出てきました。それが「イヨボヤ会館」です。
「イヨボヤ」とは何か・・・? そして博物館でも資料館でもなく「会館」とは・・・。
正直なところ、当初は「観光物産館」的な施設だと思っていましたが、とりあえず行ってみようと思い訪ねてみました。
しかしここは、予想に反して、大変充実した「資料館&博物館&水族館」とも言うべき施設でした。

「村上市鮭公園」の中にある「イヨボヤ会館」。
入口の上に掲げられた巨大な鮭のオブジェが目を引きます。やはり博物館には見えないかも・・・

入口前にある水槽にはニジマスが泳いでおり、エサやり体験もできるとのことでした。

入口には「日本最初の鮭の博物館」という大きな看板が掲げられており、この地域のイチオシとして、力が入っている様子が伺えます。
入口の扉に「イヨボヤとは・・・ 鮭のこと」という掲示があり、村上の方言であることが紹介されていました。まあ予想通りではありました・・・

館内に入ると、受付の周辺にはお土産なども並んでおり、堅苦しさのない雰囲気でした。
(入館料 大人600円 小中高生300円 開館時間 9:00~16:30)

まずは「塩引き鮭とは何か」の説明です。

腹を完全に切り開いていないのですが、切腹を嫌う武士の街ならではの「こだわり」から生まれた切り方だそうです。

順路に従って進んでいくと「シアター」があり、鮭の生態や漁の様子などを紹介していました。


その先には「ミニふ化場」があります。

こちらでは、冬になると実際に鮭の卵をふ化させているそうで、その様子が見られるそうです。

様々な淡水魚の水槽も並べられていました。


ミニふ化場から先は地下へ入り、トンネルを進んでいきます。

トンネル側面のガラス窓は、池の水の中に面していて、水中の魚たちの様子が観察できます。


トンネルの途中には、「青砥武平治記念コーナー」がありました。

鮭の生産力向上に尽力した村上藩士「青砥武平治」の取り組みを紹介しています。

トンネルの壁面には、様々なパネルが展示されています。

長いトンネルの突き当りにあるのが「三面川鮭自然観察館」で、ここは三面川から引き込んだ水路の様子を水面下から観察できるようになっています。

三面川の支流を造り、その水中の様子を観察できるようにしたなかなか大掛かりな施設で、先ほどの長いトンネルは、イヨボヤ会館から川まで地下を移動してくる通路でした。

ガラス窓からは、泳いでいる魚たちの姿が見えます。秋には実物の鮭の姿や、運がよければ産卵の様子なども観察することができるそうです。
これは秋にも来てみなくては・・・。


イヨボヤ会館に戻り1階に上がると、サケ漁についての展示があります。

鮭を用いた料理の数々も紹介されています。

鮭の皮を使った衣類や小物も展示されていて、帽子やブレザーなどもありました。
ひときわ目を引く「サケの皮のブレザー」。あの皮でこれができているとは・・・

2階からは鮭公園の様子が見渡せるのですが、たいへん広く地下まで整備されている立派な博物館でした。村上市の力の入れようが伺えました。

充実した見学を終える頃には、サケが遡上する頃にもう一度訪れてみたい、という想いが少しだけ湧いていました。さて、どうなることでしょう。

町屋通り

イヨボヤ会館見学の後、古い街並みが残る「町屋通り」へやってきました。
こちらへは、近くにある村上市役所の駐車場が観光客向けに開放されているので、ここへ駐車するのが便利です。

街並みには、昔ながらの建物も並んでいます。

塩引き鮭の老舗、「千年鮭きっかわ」を訪ねてみました。


店内に入り奥へ進むと、「塩引き鮭」が、部屋いっぱいに吊るされていました。

魚特有のにおいがほのかに漂い、鮭が頭上を埋め尽くすその光景に圧倒されます。


明治時代に造られたという「町屋造り」の店舗は、昔ながらの雰囲気を残しています。

こちらはJRのキャンペーンポスターにもなった有名スポットでもあります。

塩引き鮭や酒びたしなど、いくつかお土産を購入しました。


寺町

町屋通りから脇道に入り、寺町方面へ歩いて行きました。

寺町周辺には、立派な門を構えた大きな寺院がいくつも並んでいました。



お寺を覗きながら、黒塀の続く小路を歩いて、通りへと戻っていきました。


信用金庫の裏門?もこんな感じでした。古い町並みを地域全体で守っているようです。

鮭漁とその歴史、文化について学ぶことが多かった街歩きでした。思いのほか充実した見学になりました。
日本海の夕日と温泉の様子は、次の記事で紹介します。


