今年は、観測史上初という、かつてない気温を連発する記録的な「暑い夏」になりました。
梅雨明けが早かった分、「いつまで続くのか」と思うような猛暑が続きましたが、そんな中、涼を求めて信州のドライブに出かけました。
今回は、夏の盛りに訪れた、安曇野の蕎麦店についてです。
玄そばとは
「玄そば」というのは、本来そばの実の外殻がついたままの状態のことをいいます。
しかし、蕎麦店などでメニューに「玄そば」がある場合は、殻つきのまま挽いたそば粉で打った、黒っぽい蕎麦のことを指すのが一般的です。
蕎麦は灰色の食べ物というイメージですが、これは黒いソバの実の皮が混ざり込んでいるためで、皮を完全に取り除き、中の白い部分だけを用いる「更科そば」は、ほぼ真っ白です。
一方、あえて蕎麦の皮(ソバ殻)を含ませ、ソバ殻の食感も残したものは「田舎そば」などといわれる黒っぽい蕎麦です。
その中でも「玄そば」と呼ばれるものは、大きめのソバ殻の粒を含ませ、ざらっとした食感が楽しめる、野趣あふれる味わいの蕎麦を表すときに使われるイメージです。
更科のような繊細な蕎麦に比べ、黒い粒々が散らばる「玄ぞば」は蕎麦本来の味わいが深く、田舎でいただくのが似合うようにも感じます。
今回は、そんな「玄そば」を自家製粉の十割蕎麦で提供するという、安曇野の蕎麦店を訪ねてみました。
アルプスの麓の古民家蕎麦店

「朝日そば ふじもり」は、信州の中央に広がる松本盆地、いわゆる安曇野の本当に南端と言える場所にありました。
店がある朝日村は、鉢盛山の麓に広がる高原野菜などの栽培が盛んな農業の村で、周囲にはそうした野菜畑が広がり、北に安曇野を見渡す山里です。

古民家を改装した店舗は、看板と暖簾がなければ飲食店とは気づかないような昔ながらの雰囲気の建物でした。

店内に入ると、古民家の造りや調度品などを生かしながらお洒落に改装されており、落ち着いた雰囲気の空間が広がっていました。

店に着いたのは11:30頃で、駐車場にはまだ余裕があったのですが、店内はすでに満席で、玄関奥の待合室で30~40分ほど待ちました。(こちらは予約の受付はなく、先着順です)
待合室の窓から外を見ると、隣にはまだ手つかずの古民家も建っていました。

座席は、板の間のテーブル席と畳敷きの座敷席があり、一人客でも相席になることはないようでした。


奥の座敷に案内されると、広い窓からは庭の様子がよく見えました。
店のロゴや店内の装飾などもなかなか凝っていて、ご店主の奥様がプロデュースされたのかと思いますが、店のブログを拝見すると地域のクリエイターの方とも交流があるようなので、プロが関わっているのかもしれません。



メニューから、「玄そばの二種盛り」「にしんのやわらか煮」「やさいの天ぷら」を注文しました。


先付けとともに、まず「にしんのやわらか煮」が提供されました。
箸で切れるほどやわらかく、味付けも見た目の印象よりもやさしい感じでした。

しばらくして「やさいの天ぷら」が届き、ほどなく「玄そば二種盛り」も提供されました。
やさいの天ぷらは、地物野菜を大きめに切って揚げた田舎らしい一品でした。

二種盛りのひとつは、きしめんのような幅広なもので、これはこれで食感のおもしろいものですが、自分的にはもう一方の「玄そば」のおいしさが印象に残りました。
そば殻の混じる黒っぽい見た目ですが、細めに切られた麺は玄そばの荒々しいイメージとは違い、つるつるとしてみずみずしく、蕎麦のうまみが詰まっていて、たいへんおいしくいただきました。
次回があるとすれば、注文するのは玄そばの大盛りだと思います。

食後には、そば湯の他にデザートとして「そばようかん?」も提供されました。(これはメニューには掲載されていないようです)


お店のスタッフも忙しいと思うのですが、接客は終始丁寧で、落ち着いた対応が印象に残りました。会計時にも気さくにお声がけいただきました。

店を出ると、まだ12時台でしたが、店先には「本日売り切れ」の看板が出されていました。
「玄そば」を好む方には、おすすめの店だと思います。


