【とうじそば】松本奈川に伝わるご当地そばを味わう

【とうじそば】松本奈川に伝わるご当地そばを味わう

信州と飛騨を隔てる北アルプスを越えるのは、今でもけっこう大変な行程ですが、その中でも古くから多くの人々が往来したのが「野麦峠」でした。

その野麦峠のふもと、信州奈川周辺には、「とうじそば」という郷土そばが伝わっています。

今回は、この「とうじそば」についてのレポートです。

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とうじそば

「とうじ」とは、投げ込む、投げ入れるなどの「投入する」という意味の言葉で、冷たいそばを「とうじ籠」に入れ、温かい鍋の中に投じてから食べることから、その名がついたといわれています。

根曲がり竹で編んだ、ひしゃくの形の「とうじかご」にそばを入れ、それを肉や山菜などを煮た鍋の中に入れて温め、具材とともにいただきます。

かつて米がとれなかった奈川地方では蕎麦などが主食で、なかでもキジ肉、キノコ、山菜などを入れた「とうじそば」は、ハレの日のごちそうであったといいます。

出来上がりの味は、温かい「山菜きのこそば」といった感じですが、自分なりのひと手間をかけていただくのが楽しい、といった蕎麦かと思います。

最後は、残った汁にご飯や卵を入れて、シメの雑炊を楽しむのが定番のようです。

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野麦街道をゆく

奈川渡ダム

「奈川」に向かう道は、松本市安曇からと木曽藪原からのルートがありますが、今回は、梓川の「奈川渡ダム」から奈川に沿って遡っていきます。

ちょうど「鷹の渡り」の時期で、沿道には奈川から登っていく鷹見の名所「白樺峠」への案内板が設置されていました。

梓湖から白樺峠方面を望む

この道は「野麦街道」と呼ばれ、野麦峠を越えて信州と飛騨を結ぶ、かつては栄えた街道でした。

野麦峠について

野麦峠を越える「野麦街道」は、険しい飛騨山脈の東西を行き来するルートの中でも比較的通りやすかったため、古くから重要な交易ルートでした。

そうはいっても、標高1,672mの野麦峠は冬ともなれば完全な雪山で、かなりの難所であったことは想像に難くありません。現在も年間の半分は雪のため通行止めになる区間です。

明治期に入り製糸業が盛んになると、現金収入を求めて飛騨地方の少女たちが製糸業の盛んな信州岡谷地方へ出稼ぎするようになり、その行き来のためにここを通りました。

年末に一年間の給金をもって里帰りする飛騨の工女たちは、この峠を越えて故郷へ向かいますが、遭難して命を落とした少女も少なくなかったといいます。

こうした歴史を紹介した「あゝ野麦峠」が発表されたことにより、「野麦峠」は有名になりました。

現在もかつての「野麦街道」が残る部分があるようで、旧街道の一部が史跡として保存されているそうです。

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そば処福伝

奈川地区には、「とうじそば」を提供する店が何軒かありますが、今回訪れたのは、奈川集落の中心部に入る手前にある「そば処福伝」です。

野麦街道を進み、周囲に人家があらわれてくると、間もなく道沿いに店の看板が見えてきます。

合掌造りをイメージした三角屋根の特徴ある建物で、駐車場は道沿いに10台ほどのスペースがあります。

店内にはカウンター席、テーブル席、座敷席とそれなりの席数があるのですが、休日の午後1時ころの店内は満席で、外で少し待ちました。

店内のお客さんには、白樺峠へ鷹を見に行ってきたと思われる方々がたくさんいました。

座敷席に案内され、メニューからこちらの名物である「とうじそば」と「おじや」を注文しました。

まずカセットコンロが運ばれ、続いてお椀やとうじ籠、薬味などが配膳されます。

「とうじ籠」は、根曲がり竹で編まれた手作りのものでした。

やがて具材の入った鍋がやってきてコンロに置かれ、火をつけて温めていきます。鍋にはネギ、キノコ、山菜、油揚げ、鶏肉などが入っていました。

とうじそば(一人前1500円)

最後に蕎麦が配膳され、「とうじそば」の具材がすべて揃いました。

おじや(1人前200円)

「おじや」のご飯と卵もやってきました。

蕎麦はとうじ籠に入れやすいように、六つに小分けにして盛られています。

それをひとつずつ籠に入れて鍋の汁にくぐらせ、温めてからお椀に盛り、具材とともに汁を加えて出来上がりです。

そうしてできた「小さな山菜そば」が何杯も食べられる、といった感じでした。

蕎麦を食べ終えた後は、再び汁を温めて、今度は「おじや」です。

ご飯を入れ、煮立ったら溶き卵を加えて完成です。

「おじや」は二人で1人前にしましたが、十分な量がありました。2人前だとちょっと多いかもしれません。

蕎麦自体もおいしい手打ちそばですが、そこに様々な具材の味が加わり、自分で作る楽しみもあって、なかなかよい食事をいただけました。

そしてとても体が温まりました。寒い季節には一層おいしく感じられると思います。

店の前には、「秋の新そばまつり」のポスターが貼ってありました。これからますます「とうじそば」がおいしい季節がやってきます。

※ 価格等の情報は、2024年9月時点のものです。