長野県の中央部、上田と松本を結ぶルートに「保福寺街道」があります。
古くは東山道の一部であり、明治期にはあのウェストンも通った道なのですが、現在の峠越えは通る人も少なく、舗装はされていますが1車線の道が続く閑散としたルートです。
今回は、そんな歴史ある峠道を走ってみました。
保福寺峠の歴史
「保福寺峠」は上田~松本間を結ぶ主要ルートとして、明治の初めまで多くの人々が行き交う道でした。
現在は通る人もほとんどいない峠ですが、古くは奈良時代に東山道の一部として整備され、江戸時代には松本藩主が参勤交代で通ったという歴史ある道です。
また、日本アルプスを世界に紹介したウォルター・ウェストンも、この峠を越えてアルプス登山に向かっており、上田から保福寺峠を越える時に見た、北アルプスの姿を絶賛したといわれています。
明治期に鉄道網が整備されると、この街道も上田~松本間の主要ルートとしての役割を終えることになります。
現在は、周辺にいくつもの道路が整備され、ここを通る人はかなり少ない状況になっています。
上田から松本へ
まずは上田から国道143号線を走って西に向かいます。途中にある「道の駅あおき」が補給に便利です。(この先にコンビニもあります)
国道から「県道12号線(丸子信州新線)」に入り、谷あいの道を進んでいきます。
さらに「青木の森別荘地」の看板で右折し、「県道181号(下奈良本豊科線)」に入ります。
峠道を走る
周囲に人家がなくなると道は急に細くなり、1車線になります。あまり通る車はいませんが、この先ずっと対向車には注意が必要です。
林の中の細い道を進んでいくと、けっこうな山の中に駐車場の看板が見えてきました。
沿道の林の中に、突然「マレットゴルフ場」があらわれますが、他には何もありません。道は相変わらず1車線です。
視界の開けない1車線の道をひたすら走っていきます。
すれ違いのできるような場所もほとんどないので、もし対向車が来たら、かなりの距離をバックしなくてはならないと覚悟していましたが、今回の峠越えでは他の車両には1台も出会いませんでした。
高度が上がると明るい林になってきます。
道幅の広いところが出てきたり、周囲の展望が開ける場所も出てきます。
やがて道は「松本市」の看板のある平坦な広場に出て、「保福寺峠」に到着です。
保福寺峠
峠には結構広いスペースがあり、周辺には「万葉歌碑」や「林道開通記念碑」などが建っていました。
大きな案内板もありましたが、ほとんど消えかかっていて、それが現在の峠の状況を表しているかのようでした。
よく見てみると、「保福寺峠スカイライン沿線案内図」と書かれていて、かつてはこのルートも「スカイライン」と呼ばれていたのか・・・、と今の姿を寂しく思いました。
道の脇の丘の上に「ウエストン記念碑」があるようなので行ってみます。
丘の上の北アルプスを望む斜面に、「ウォルター ウェストン 日本アルプス絶賛の地」と彫られた大きな記念碑が建っていました。
裏面には説明書きがあり、明治24年8月、人力車でこの峠へ向かったウェストン一行は、午後6時に峠に到着し、この丘の上からアルプスの峰々を眺めたそうです。
その時の様子を、「私達は思いがけなくその眺望に接したので、ただ驚嘆するばかりだった」と、著書に記しています。
四賀の里へ
松本側の道はこれまでより広くなり、快適に下っていきました。
下り始めて間もなく、武石峠へ抜ける「林道蝶ヶ原線」の入り口がありましたが、一般車両は通行禁止になっていました。
途中に「東山道」と書かれた場所があり、古道の跡も部分的に保存されているようでした。
かつての東山道では、ここも「神坂峠」や「碓氷峠」と並ぶ難所だったのだろうと思います。
さらにしばらく下ると、「一遍水」という清水がありました。
鎌倉時代の僧で時宗の開祖である「一遍」が、念仏遊行の途中でこの峠の茶屋に立ち寄り、近くの清水を飲んだところ、「これはうまい」と絶賛し、この水を「一遍水」と命名したそうです。
その故事をもとに、地元の方々が清水を探して、ここへ引き込んだそうです。
今はほとんど往来のない寂しい道ですが、古い峠にはいろいろな故事があるのだなぁ、と改めて思います。
その後も、一部道の荒れた部分もありましたが、おおむね快適に走って麓の「四賀」まで下ってきました。
峠の名の由来になっている「保福寺」の周辺には、かつては「保福寺宿」という宿場があり、賑わっていたそうです。
かつての「本陣」の別館を利用したという古民家カフェに寄ってみましたが、この日は定休日でした。
四賀地区は、クジラなどの化石が発掘されることで有名だそうで、街道沿いには立派な「化石館」もありました。
化石館の向かいには、ライダーたちに有名なカフェがありますが、こちらもこの日はお休みでした。
この後、近くに「四賀キャニオン」という景勝地があるということで見に行きましたが、それは次回の記事で紹介します。
関連情報
保福寺峠を越える「県道181号下奈良本豊科線」は、全線舗装路で路面も多少荒れた部分もありますが、道が狭いこと以外は特に気になる点はありませんでした。
峠の上田側はほぼ林道といった感じで、ほとんどが1車線なので、対向車が来た場合は、すれ違いのできる場所を探すのに苦労すると思われます。
バック運転に自信のない方は、松本側から峠まで往復するのがよいと思います。
また、舗装部分を外れた路肩も、かなりぬかるんでいる部分が多いので、安易に車を寄せるのは控えた方がよさそうでした。抜け出せなくなる場合があるかもしれません。
1車線の部分が大変多い道なので、単車の方が心おきなく走れると思います。
秋の晴れた平日に走りましたが、峠道では他の車両に出会うことは全くありませんでした。
対向車が来たらすれ違いに苦労すると思われたので、正直ほっとしましたが、一般道でここまで人の気配のない道を走るのは久しぶりでした。
歴史ある道ですが、展望の開ける場所がほとんどなく、景観が今一つなことが人気のない要因かと思います。
しかし、この周辺には様々な林道が通っているので、走行可能なところを探して走り回るのもおもしろいかもしれません。