今の上高地の中心は「河童橋」周辺だと思いますが、観光開発される以前のかつての上高地では、もう少し奥の「明神」周辺が中心地でした。
ハイキングの準備をして、少し足を延ばしてみると、上高地の魅力ある景色をさらに満喫できると思います。
今回は、河童橋から徒歩1時間ほどのところにある「明神」周辺までの、手軽なハイキングについて紹介します。
夏の上高地へ
今年の夏はとても暑くなりましたが、山ではあまり天候に恵まれず、山歩きに良い時期は少なかったように思います。
山へ出かける適期を得られないまま、お盆が過ぎてしまったのですが、そんな中、わずかながら晴天が訪れそうな日があったので、前日に思い立って「上高地」へ行ってみました。
「上高地」は何回も訪れているのですが、じつは登山に行き来するために通りすぎるだけの場所だったので、この地域のことを詳しくは知りません。
そこで今回は、キャンプ地である「小梨平」と「徳沢」の間にある、「明神」周辺を巡ってみることにしました。
以前の記事で「大正池」から「河童橋」までの散策ルートを紹介しているので、今回は「河童橋」から梓川の上流にある「明神」までの様子をまとめてみました。
シャトルバスで上高地へ
今回も自家用車利用なので、マイカー規制区間に最も近い「さわんど駐車場」に駐車して、「さわんどバスターミナル」からシャトルバスで上高地へ向かいます。
バスターミナル発のシャトルバスは、夏の間は5時が始発です。
しかし、早朝の上高地は霧の中ということが多く、この日も日の出までは視界がないだろうと思い、ゆとりをもって6時発の便に乗りました。
バスは満席でしたが、ほとんどの方は「大正池」のバス停で降りていきました。ここから「河童橋」まで歩くのが、人気のコースになっているようです。
およそ30分の乗車で、バスは終点の「上高地バスターミナル」に到着しました。ここまで乗車して来たのは数名だけでした。
朝のバスターミナルには人影はまばらで、背後の六百山にはまだ霧がかかっていました。
しかし、梓川対岸の「焼岳」には朝日が当たり始めていて、青空にくっきりと浮かび上がっています。
ちなみに、上高地のトイレはどこもチップ制になっているので、あらかじめ小銭を用意しておいた方がよいと思います。
バスターミナルから梓川沿いへ出て、河岸の道を「河童橋」へ向かいます。
明神岳をバックに、河童橋が見えてきました。
バスターミナルから河童橋まではおよそ400mで、徒歩5分ほどです。
河童橋の手前に、こんな看板が立っていました。
2024年8月現在、小梨平から明神へ向かう「梓川左岸歩道」は、災害のため通行止めになっていて、歩くことができませんでした。
河童橋
河童橋に着くころには、穂高の峰々にも朝日が当たり始めました。
夏休み期間中のためか、河童橋周辺には早朝からそれなりの人出がありましたが、のんびりと山々を眺める人が多い時間帯でした。
朝日を浴びて、山々がまぶしく輝きだしてきました。
岳沢湿原
今回、明神までの道は「梓川右岸歩道」しか通れないため、同じ道の往復になります。
河童橋を渡り「白樺荘」の脇を進むと、川岸にはススキの穂が揺れていて、早くも秋の気配を感じさせます。
沿道には「クマ目撃情報」が掲示されていました。
現在、徳沢方面へ向かう道はここだけなので、槍・穂高方面への登山者などもいて、けっこう人通りは多いと思いますが、安心はできないようです。
右岸の道をしばらく行くと、まもなく「岳沢湿原」が見えてきます。
梓川沿いの木道では周囲の展望が開け、対岸に聳える「六百山」や、前方には穂高の峰々などが見られます。
梓川右岸歩道を行く
岳沢湿原を過ぎると、樹林の中のよく整備された平坦な道を歩いて行きます。
河原に近いところでは、木々の間から「焼岳」なども見えています。
途中でしばらく車道を歩き、再び木道になると、「明神」は近いです。
木々の間から、「明神岳」も間近に仰ぎ見られるようになります。
やがて道は梓川の河岸に出て、前方に「明神橋」が見えてきます。
橋を渡って左岸に行くと、橋の正面に険しい明神岳の岩峰が聳えるという圧巻のロケーションが待っています。(これは明神の支峰で、本当の山頂はもっと奥で見えません)
「明神」は、かつては上高地の玄関口でした。
釜トンネルができて車両が通行できるようになるまで、上高地へ入るには、山越えを除けば、島々から「徳本峠」を越えて明神に下りるのが唯一のルートでした。
そしてここは、穂高神社の奥宮があったり、松本藩の番所があったりした上高地の中心地でもありました。
ちなみに、現在「穂高神社奥宮」の背後に聳えるのは「明神岳」ですが、かつてはこの一帯の山塊を「穂高岳」と総称していて、こちらも穂高岳の一部でした。
昭和初期の山名変更により、現在の穂高岳とは区別されて「明神岳」と呼ばれるようになっています。
穂高神社奥宮
梓川の岸辺から明神池方面へ向かうと、すぐに穂高神社奥宮の鳥居があらわれます。
鳥居の先には、かつて近代登山の黎明期にウエストンの山案内人を務め、名ガイドとして知られた上条嘉門次が開いた「嘉門次小屋」があります。
その奥の、明神池のほとりに、「穂高神社奥宮」が鎮座しています。
このような深山の湖畔に、いつから祀られていたのだろうと思うのですが、もともとの「上高地」(本来は「神垣内」)の名前の由来は「神降地」「神河内」ともいわれ、神の降り立つ神聖な場所と思われていたようです。
確かに、山奥に開けた風光明媚な場所に、背後に険しい明神の峰を仰ぎ、神秘な池が広がる姿は、信仰の対象となるのに十分だったのかもしれません。
社務所の脇から、池のほとりへ行ってみました。明神池畔へ入るには、拝観料500円が必要です。
明神池
湖畔に出ると、まず「明神一之池」があります。
ここには、池の上に明神岳に向かって長い桟橋が延びていて、その先に「遥拝所」があります。
ご神体である明神の峰を正面に仰ぐ、穂高神社を象徴する場所です。
たくさんいる参拝者たちは、順番に交代でお参りしたり、写真を撮ったりしていました。
「一之池」の下流側には、「明神二之池」があります。
こちらは、日本庭園のような趣の岩や木々の広がる美しい池でした。
「深い山の奥に、こんな世界があったのか・・・」と思わせるような、深山の湖畔での静かなひと時でした。
嘉門次小屋
明神池の拝観の後、「嘉門次小屋」に寄ってひと休みしました。
昼食にはまだ早いので、こちらの名物「岩魚の塩焼き」を単品で食べてみることにしました。
注文は、券売機(現金のみ対応)で食券を購入してから行います。
座席で待っていると、向こうの水辺では、すくった岩魚の頭をたたき、串に刺している様子が見えます。ここの岩魚は、まさに捕れたて、焼きたてです。
囲炉裏のまわりには、びっしりと串焼きの岩魚が並んでいました。
串のままかじるのかと思っていたら、届いた岩魚は串が外されていました。
「丸ごとどうぞ」とのことだったので、普段はそんな食べ方をすることはないのですが、おそるおそる頭からかぶりついてみました。
すると頭の部分もやわらかく、身の方もふっくらとしていて、抵抗なく丸ごと食べてしまいました。これならゴミも出ないので、そのように勧めているのかもしれません。
振りかけた塩が、岩魚の淡白な味わいを引き立て、香ばしく魚臭さもまったくなくて、思いのほかおいしかったです。
ウェストン碑
同じ道を河童橋まで戻ると、まだお昼前だったので、もう少し周辺を歩いてみました。
梓川沿いを下ったところにある「ウェストン碑」までは約1km、15分ほどなので行ってみました。
ウェストン碑の近くまで来ると、六百山の陰に隠れていた「霞沢岳」が見えるようになります。
ウェストン碑の周辺には、大正池から歩いてきたハイカーたちがたくさん集まっていました。
「日本アルプス」の存在を世に広めたイギリス人宣教師 W・ウェストンを記念した碑の前では、毎年6月に「ウェストン祭」が行われています。
河童橋周辺に戻ったのはちょうどお昼時で、周辺はたくさんの観光客で賑わっていました。
穂高の峰々は雲の中に隠れてしまいましたが、梓川の河原に下りている人もたくさんいて、一年で最も賑わう時期の上高地の一日を満喫しました。
関連情報
上高地には、バスかタクシー以外では入ることができません。自家用車の場合は、どこかへ駐車して乗り換えることになりますが、最も近いのが「さわんど駐車場」です。
「さわんど駐車場」の駐車料金は1日700円。24時間制ではなく午前0時で日付が切り替わるので、前日夜に着いて車中泊などをしていると、料金は2日分になるので注意してください。
バスターミナルからは、30分おきにシャトルバスが出ていて、夏の間は始発が5時です。運賃は、大人片道1,500円、往復2,800円で、子供はそれぞれ半額です。
上高地での食事は、夏の間は訪れる人数に比べて食事場所の数が圧倒的に少ないです。
しかも価格もかなり高額になるので、初めから食事を持参する人も多く、それが混雑を多少緩和しているという面もあります。
河童橋近くはカフェなどもかなり混雑しているので、ゆっくりしたい方は、周辺部へ少し離れるのが良いかと思います。
今回、上高地では「五千尺キッチン」の売店でソフトクリームを購入したのみで、早めに下山して午後は乗鞍高原へ移動して温泉に入りに行きました。
午後はガスが湧き、山の展望もなくなるので、早めに上高地を後にしてからゆっくり食事などをするのがおすすめかもしれません。
※この記事の情報は、すべて2024年8月時点のものです。