京都を紹介するときに、必ずといっていいほど登場する「五山送り火」。
中でも、「大文字山」に描かれる「大」の字は、京都を代表するアイコンになっています。
初冬のある日、その「大文字山」に登ってみました。
五山送り火の山
京都を代表する行事である「五山送り火」は、8月16日の夜に、京都の街を取り囲む5つの山に、文字や絵を描き出す趣のある伝統行事です。
江戸時代には、もっとたくさんの山で送り火が焚かれていたそうですが、今は5つの山になり、その中でも大文字山の『大』の字は、送り火の最初に灯されることもあり、送り火を代表するものになっています。
その「大文字山」への登山道はよく整備されていて、多くの人が訪れる人気のハイキングルートです。
1時間ほどで山頂に立てる手軽なルートで、冬は訪れる人も少なく、静かな山歩きが楽しめます。
京都に「大文字山」という山はもう一つあって、いわゆる「左大文字」の山も同じ名前なので、東山の方は奥に聳える山の一部として「如意ヶ岳」と呼ばれることもあります。
大文字山の山頂には「京都一周トレイル」のルートが通っていて、京都東山を縦走しながら登ることもできますが、今回は銀閣寺から登り、送り火が灯される「火床」を通って山頂までを往復します。
銀閣寺から火床へ
今回は、メインルートともいえる銀閣寺からの登山道を登ります。
銀閣寺橋から始まる「哲学の道」を右に見ながら、銀閣寺参道を進みます。
銀閣寺の前で左へ曲がり、道なりに進みます。
銀閣寺通用門近くの道沿いに「駐輪場」があり、こちらに自転車、バイクを駐めることができます。4輪車の駐車場はありません。
進んでいくと、道は2つに分かれますが、案内に従って右(行者の森方面)へ進みます。
道沿いに駐車場がありますが、こちらは一般の車両を駐めることはできません。
しばらく緩やかな坂道の車道を進むと、看板の後ろに小さな橋が見えてきました。
「火床」へ続く道は、この橋を渡って行きます。
銀閣寺橋から登山道の入口までは20分ほどです。
ここから登山道が始まりますが、道はよく整備されています。
平日の朝8時過ぎという時間帯でしたが、地元の方、観光客の方、海外の方など、様々な方々がこの道を上り下りしていました。
登山道の途中に「千人塚」という供養塔があり、ここで登山道は左へ大きく折り返し、傾斜も少し緩やかになります。
ここまでくれば、火床まではあとわずかです。
途中に青い防護柵があり、この上をリフトのワイヤーロープが通っているのですが、これは送り火の時の資材を運ぶためのもので、人が乗るリフトはありません。
さらに進むと、石造りの立派な階段が見てきました。
この階段は、途中で途切れる部分もありますが、火床まで続いています。
倉庫のような建物を過ぎ、青いリフトの鉄塔を過ぎると、再び長い石段が始まります。
途中で、石段の落葉を掃く方に出会いました。この登山道を整備している地域の方でした。
こうした人々によって手入れが成されていることで、この地域の山と伝統が守られています。
石の階段を登り切るとコンクリートの広場があり、目の前には火床が並んでいて、その向こうに京都の街並みが広がります。
送り火の「大」の1画目の、書き出しの部分に到着しました。
「大」の字の中心には「弘法大師堂」というお堂が建っていて、送り火の起源は弘法大師が始めたという説もあるそうです。
弘法大師堂の前には、「金尾(かなわ)」と呼ばれるひときわ大きな火床があり、ここが送り火の最初の点火場所になっています。
「大」の字の一番上に向かって、さらに階段を登って行きます。
大の字のてっぺんからの眺めが、このルートで最も見晴らしがよいと思います。
登り始めの登山口から、ここまでおよそ30分です。
大文字山の山頂へ
しばし展望を楽しんだ後、「大文字山」の山頂へ向けて、さらに歩みを進めます。
石の階段はここまでで、この先は再び登山道が続いています。
山頂への道は尾根上を辿るルートで、傾斜はこれまでよりも緩やかになります。
落葉が敷き詰められた道を歩いて行きます。
木々の間から明るい光が届くようになると、山頂の広場が見えてきます。
火床のてっぺんから山頂までは、20分ほどです。
山頂の展望台では、何人かの方が休憩をしたり、食事を作ったりしていました。
この日は少し霞んでいましたが、ベンチに腰掛けて京都の街を眺めました。
山頂の周辺にはたくさんのベンチが設置されているので、暖かい季節にはかなりの人々で賑わっているのだろうと思います。
火床へ向かって下山していると、「夜間の登山禁止」の看板がありました。
夜景を見るためでしょうか、夜に登る人もいるようでした。
火床へ戻り、再び様子を見てみました。
「弘法大師堂」の周辺では、ハイキングの方はもちろん、散歩のように登ってきた地域の方や、出張のついでに訪ねてきたような方など、様々な人が訪れていて、人影が絶えることはありません。
近くに住んでいたらしばしば訪れるかもしれないと思うような、素晴らしい景色が広がっていました。
火床を後にし、石の階段を下っていきます。
石段は、地域の方によってきれいに掃き清められていました。
石段をよく見ると、昭和4年に有志の方々によって築かれたものであることが記されています。
百年近く前にこのような立派な石段を作っていたことに驚くとともに、火床を整備したりリフトを架けたりして、年に一度の行事のために様々な準備を行っていることに、地域の方々の「送り火への想い」を感じます。
銀閣寺へ戻ると、周辺はたくさんの観光客で賑わっていました。
「大文字山」往復は、休憩も含めて2時間半ほどの、景色が素晴らしいハイキングです。
夕方、吉田山付近から西日を浴びた大文字山を見上げると、火床には「大」の文字が浮かび上がっていました。
今回は初冬の京都東山で、静かな山歩きができました。冬は観光客も少なくて、ハイキングによい季節だと思います。
落葉が舞い散る中、歴史ある場所をたどる小さな旅でした。
関連情報
駐車場とトイレ
駐車場は、銀閣寺周辺に多数あります。
銀閣寺橋の南には「市営銀閣寺観光駐車場」があり、こちらは1回1040円です。
それ以外にも、周辺にはコインパーキングが多数あり、1日駐めても24時間最大で500円程度からあるので、コインパーキングを利用した方が安いかと思います。
なお、市営銀閣寺観光駐車場は夜間は無料開放されていて、17時~8時の間は無料で駐めることができます。
トイレは、銀閣寺橋の西にある公衆トイレ、市営駐車場のトイレが利用できます。
しかし、それ以降の登山道や火床にはまったくないので、こちらを利用しておく必要があります。
食料は、銀閣寺周辺には観光客向けの商店が多数ありますが、早朝は開いていないので、時間によっては現地調達はまったくできません。銀閣寺周辺にはコンビニもないので、事前の準備が必要です。
飲料水は、銀閣寺参道にある自販機で調達することができます。