古くから月の名所として知られる「姨捨(おばすて)」。
姨捨の背後に聳える「冠着(かむりき)山」は、別名「姨捨山」と呼ばれ、山頂近くまで自動車の通れる道があるため、比較的簡単に登頂できる里山です。
長野盆地を見渡し、周囲の山々の展望が広がる絶景スポットでもあります。
そんな秋の冠着山へ、低山ハイクに出かけてみました。今回は、冠着山、別名姨捨山のハイキングの様子です。
冠着山(姨捨山)とは
冠着山の標高は1,252m。更級の里の間近に聳え、山頂が特徴的な丸い円頂丘であることから、けっこう目を引く山だと思います。
山頂にある「冠着神社」には、月の神である月読尊が祀られていて、月を詠んだ歌碑も建てられています。
ここは古くは越ノ国へ向かう「東山道支道」が通っており、中世以降もいわゆる「善光寺街道」といわれる道が通っていた地域で、山頂の西には「古峠越」があります。
近くには、月の名所として知られる「姨捨の棚田」があり、小さな水田が階段状に並んでいます。
棚田の周辺は、水田に映る月(田毎の月)や、千曲川対岸の「鏡台山」から登る月の風景を望むことができ、「長楽寺」には月にまつわる句碑もたくさんあります。
そして1999年(平成10)には、「姨捨(田毎の月)」として国の名勝に指定されました。
月の名所
「姨捨(おばすて)」の名が歴史に登場するのはけっこう古く、平安時代から広くその名が知られていました。
「わが心なぐさめかねつさらしなやをばすて山に照る月をみて」(古今和歌集)よみ人しらず
「おばすて」の語源には諸説あるようで、この歌にまつわる大和物語の説話(おばあさんを山に置き去りにしてきたが、どうしてもそのままにできず迎えに行った)は、棄老伝説と結びついた創作だと思いますが、この歌が元になってこうした伝説が広がり、「姨捨といえば月」となり、歌枕として語り継がれたようです。
江戸時代には松尾芭蕉が訪れ、安藤広重も「田毎の月」を描いている名所です。
東国の山深い里が「月の名所」になったのは、都を遙か離れた更級の風景と伝承が、都人の郷愁と憧れを誘ったということなのでしょう。
アプローチ
冠着山にはいくつかの登山道がありますが、今回は自家用車を利用した最短ルートでの登山です。
まず、冠着山頂の南側を走る「県道498号線」を目指して、聖高原へ向かう「国道403号線」に入って登っていきます。
途中にある「千曲川展望公園」に寄って、景色を見ていきます。長野盆地が広く見渡せる展望スポットです。
※「国道403号線」の新潟・長野県境の様子を、下記の記事で紹介しています。
大池
眼下に姨捨サービスエリアを見ながら登っていくと、「千曲高原」方面への分岐があらわれるので、ここを左折します。
2車線の広い道路が続いています。
道なりに進むと「大池」のほとりに出ます。「姨捨の棚田」の水は、ここから流れていったものです。
池に沿って進んで行くと、やがて広い駐車場のある「大池キャンプ場」の前に出ます。
「大池キャンプ場」は湖畔の静かなキャンプ場で、姨捨スマートインターからは10分ほどの距離でアクセスもよく、テント一泊620円と手頃な料金で利用できます。
珍しいことに、キャンプ場なのに定休日があり、毎週水曜日が休みです。
大池キャンプ場を過ぎると「大池自然の家」があり、ここまでは2車線の道でしたが、ここを過ぎると、道は急に細くなります。
林の中の道を走っていくと、道端に「一本松峠」の碑と説明板が立っています。
しかし周囲は平坦な場所で、峠はもう少し先のようです。
一本松峠の碑から平坦な道を進んでいくと交差点があり、「県道498号線」に合流します。ここが峠だと思うのですが、あそこに碑があったのは何故なのでしょう。
「筑北村」に入り、尾根に沿った道を進んでいくと、「古峠」とその向こうに聳える冠着山の山頂が見えてきます。
古峠
「古峠」は古くからの交通の要衝で、南に「県道494号線」への分岐があり、北には「林道冠着山線」が分かれていきます。
また、ここは古代の「東山道支道」が通っていた場所とされていて、道の脇に古峠越入口の看板もありました。
周囲の展望も開けていて、長野盆地や上信国境の山々が見渡せます。
尾根に沿うように走る道を登って行き、やがて道が平坦になると広場の前に出ます。ここに案内板が立っていて、駐車場になっています。
平日でしたが、数台の車が駐車していました。ここに車を駐めて登山を開始します。
冠着山登山
駐車場に着いた時は、ちょうど先行するハイカーの方が登り始めたところでした。ひっそりとした山かと思っていましたが、それなりに人が入っているようです。
登山道はトレッキングコースとして整備されているようで、立派な案内板が立っています。
登山口には「冠着山山頂まで1.1km」という標識が立っていました。
登り初めは、自動車が通れるほどの広い道です。
広い道が終わると山道になりますが、間もなく稜線に出ます。ここに「山頂まで0.4km」の標識が立っています。
落ち葉を敷き詰めた道を折り返しながら登っていくと、途中の南側斜面に、ベンチや山の案内板のある「展望台」がありました。
ここは、北アルプスや美ヶ原などを広く見渡すことができる絶景スポットで、山頂より見晴らしのよい場所です。ここまで登山口から20分ほどです。
再び登り始めると、10分足らずでなだらかな山頂の台地に出ます。
筑北村方面を向いた石造りの社を過ぎると、トタンに覆われた冠着神社の社殿が見えてきます。
冠着山山頂
山頂はけっこう広い広場になっていて、樹木の間から周囲の展望が広がります。
山頂にある「冠着神社」は東向きに建っており、更級の里の人々が祀っているようです。
高浜虚子の「更級や姨捨山の月ぞこれ」の句碑も建っています。
山の案内板にある説明によると、冠着山の名前の由来は、「天の岩戸」を背負って天翔けてきた手力男命が、この美しい峰にひかれてここでひと休みし、冠を着け直したという伝説によるそうです。
山の案内板には「富士山」という表記もあったので見てみました。
蓼科山の左に八ヶ岳らしきピークが見えていたのですが、右側には富士山らしい姿を見ることはできませんでした。
駐車場からはゆっくり歩いても30分ほどで、紅葉の道をたどる晩秋のハイキングでした。月の名所「姨捨」の観光とあわせて、手軽な登山が楽しめると思います。
周辺情報
聖高原
車に戻ってから、帰路は県道498号線を通って「聖高原」へ向かいました。
美しく色づいた「聖湖」の湖畔では、たくさんの釣り人が釣り糸を垂れていました。
湖にはペダルボートがあったり、湖畔の公園にはスライダーや遊具があったりして、子どもも楽しめる場所です。どういう関係なのかわかりませんが、蒸気機関車やジェット戦闘機なども野外展示されていました。
JR姨捨駅
「姨捨駅」は山の中腹の斜面にある駅で、駅前にはスペースがなく、駐車場もけっこう離れた場所にあります。
こういう場所にある駅なので、少し変わった「スイッチバック」という方式が採用されています。
駅は路線の途中ではなく、本来の線路から分かれた引き込み線の先にあります。
坂道の線路を上ってきた列車は、いったん停車し、バックで引き込み線の先にある駅に入ります。駅は水平に設置されていて、ここで乗客は乗降します。その後、再び傾斜のある路線に戻ってまた上っていく、という形になります。
駅のホームからは長野盆地が一望でき、見晴らしがよいため、姨捨駅付近からの眺めは「日本三大車窓」とされています。
長楽寺
棚田の近くにある「長楽寺」は、月見の名所とされ、境内にはたくさんの句碑が建っています。
観音堂の背後にある「姨石」の上からは長野盆地が一望でき、棚田の様子も見ることができます。