群馬県と長野県の境には2000m級の山々が連なっていますが、その間を越えて行き来する山岳ドライブルートが幾つも開かれています。
観光道路として特に有名なのは「志賀草津ルート」だと思いますが、その近くにも、絶景でありながらあまり知られていない道があります。
今回は長野県高山村と群馬県万座温泉を結ぶ、「上信スカイライン」を走り、途中で「毛無峠」を訪れるドライブについて紹介します。
上信スカイライン 県道112号大前須坂線
「上信スカイライン」という呼び名は、かつてバス路線が開かれ、観光道路として売り出された頃につけられた名前で、現在では使われることは少ないようです。また別名「万座道路」などとも呼ばれています。
長野県、群馬県どちらから走っても良いルートですが、今回は高山村の牧を出発し、途中で「毛無峠」を訪れ、群馬県の万座温泉までのドライブの様子を紹介します。
峠道の歴史
はじめに、少しだけ道の歴史を紐解いておきましょう。
「秘境」と書きましたが、それは現在の姿で、この道は古くから信州と万座温泉を行き来する道として盛んに利用されてきました。
高山村の「七味温泉」から谷沿いを通る道と、尾根上を通る道の二つがあり、今回通るドライブルートは、尾根上を通る「湯峰道」が元になっています。
尾根上のドライブコースへ
高山村の中心部を過ぎると、道は山田温泉・七味温泉方面と万座方面とに分かれます。
万座方面に進み、しばらくは樹林の中の道を走ります。
しばらく走ると、道は崖に沿って斜面を折り返しながら登るようになり、そこを登り切ると「湯峰展望広場」の東屋が見えてきます。
道は尾根上を走るようになり、傾斜も比較的緩やかになります。
一部につづら折りの部分もありますが、多くは尾根上を通るため展望が開ける場所もあり、整備された走りやすい道です。
やがて稜線が見えてくると、毛無峠への分岐が近いです。
上信国境の秘境 毛無峠へ
分岐から先はすれ違いに注意
分岐から「小串」「毛無峠」方面に進みます。
万座方面から来ると、道は大きく折り返すように左折しますので、気をつけないと行き過ぎてしまいそうです。
毛無峠への道に入ると道幅は狭くなり、すれ違いが難しい場所も出てきます。このあたりは意外と車の出入りがあり、対向車には注意が必要です。
訪れた日は、ちょうど除草作業が入っている日でした。路肩の草もきれいに刈り取られ、しっかりと手入れがされています。
やがて、毛無峠とその向こうの「破風岳」が見えてきます。左側に鉄塔が見えてくると、まもなく峠に到着です。
廃墟の風景が広がる毛無峠
毛無峠の景色には独特なものがあり、多くの人々は、この景色を求めてやって来るのでしょう。
上の写真は、群馬県との県境の標識です。けっこう有名らしいのですが、字がかなり薄くなっていてよく読めません。車道は群馬県側まで続いていますが、関係者以外はここから先は立入禁止です。
峠に立っている鉄塔は、峠の群馬県側にある「小串硫黄鉱山」から、硫黄を運び出すのに使われた索道の遺構です。
かつては峠を越えて、約10kmにも渡って長野県側に続いていたそうです。
群馬県側に目を向けると、すぐ足下に「小串鉱山跡」が見えます。
「小串鉱山」は国内有数の硫黄鉱山で、最盛期には2000人以上が暮らしており、学校や診療所もあったそうです。閉山から50年近い時が立ち、今は廃墟となってしまいましたが、ここにはかつて街があったのです。
峠の周辺がこのような草原になったのは、硫黄精錬のための燃料として樹木が伐採されたことと、精錬時に発生する有毒ガスが樹木を枯らしてしまったとのこと。
広がる草原、吹き抜ける風、大空を舞うグライダー、取り残された遺構たちの姿・・・。独特な光景に、何となくジプリ作品の世界を思い出していました。
ラジコングライダーの聖地
毛無峠はラジコングライダーの愛好家たちには有名な場所で、天気の良い日はいつでもグライダーが飛んでいます。
この草原と吹き続ける風が、グライダーに適しているのでしょう。この日も数名の方たちがグライダーを飛ばしていました。
上信国境の登山口
峠の先には「破風岳」(1,999m)が聳え、ササの斜面に続いているつづら折りの登山道を、登っていく人の姿もよく見えます。
毛無峠は、ここを拠点として、破風岳の先にある土鍋山(1,999m)、峠の反対側にある御飯山(2,160m)などへの登山口としても利用されています。
峠には、ドライブでやってきた人、秘境を走るライダー、グライダーを飛ばしに来た人、山に登る登山者など、様々な人が訪れていました。
標高1900mの高原ドライブ 県道466号牧干俣線
分岐に戻り、ここを右折して万座方面へ向かいます。
標高はおよそ1,900mの高原ですが、上信国境の稜線に沿ったほぼ平坦な道です。
大きな標識を見ながら、群馬県に入ります。
途中に「太田堰源流之地」という碑があり,「こんな高所に?」と思い調べてみると、江戸時代にこの一帯を水源として長野県側への堰が作られたとのことで二度びっくり。
上信国境は分水嶺になっており、群馬県側の水は太平洋へ、長野県側は日本海へと流れていきます。分水嶺を跨いだということなのでしょうか。
何度も立看板で注意喚起されていた、大型車の通れない崩落箇所を通ります。普通車は問題なく通行できました。
「万座峠」まで来ました。ここで長野県側から「林道山田入線」が合流し、終点のゲートが設置されています。
ゲートは閉じられたままで、林道山田入線は以前から通行できなくなっています。少し歩いて下ってみましたが、崩落が激しく、こんな絶壁の谷によく道を通したものだと感心します。しかし、バイクや自転車でここを走る猛者たちがいるらしいです。
万座峠を過ぎると、間もなく万座温泉が見えてきて、このルートも終点です。
万座住民センターの前を右折し、万座プリンスホテルの前を通り、草津・志賀方面への道との分岐点に出ます。
この先、「志賀草津ルート」へ進む場合、夜間の通行ができませんので、時間に注意してください。
また、白根山の火山活動の状況によっては、交通規制がされる場合があるので、事前に情報を確認してから出かけてください。
道路の状況
長野県高山村から走り出すと、高度差1000m以上を登るドライブになりますが、道は整備されており尾根上を走る部分が多いため、所々で展望が開ける気持ちの良いルートです。
反対に万座から走り出すと、後半はほぼ下りが中心の走りになります。
整備状況
道は一部崩落箇所があり、群馬県内で大型車通行止めの箇所がありましたが、普通車は問題なく通行できました。
長野県側では、ちょうど路肩の草刈りなどの作業が進められており、道はよく整備されている印象を受けました。
注意点
この一帯の知名度はそれほど高くないので、交通量は多くはありません。
しかし毛無峠周辺は、ラジコングライダーの愛好家や秘境を求めてやって来るライダーなど、それなりに人は入っていますので、カーブ等での対向車の有無などに常に注意している必要があります。
霧の出やすい場所でもあるので、慎重な運転を心がけてください。
また、観光道路ではないので、高山村から万座温泉の間の山道には、売店やトイレなどの施設は一切ありません。
安全に気をつけ、まだ見ぬ景色を求めて、ドライブを楽しみましょう。